・まこの年我としやくのたのしみはとその酒もり只の酒もり
孫の授かる年の私は家族の長としての責任と安堵、新年、長寿を祝うはずの屠蘇が
酒盛りとなり、日頃の生活もたえず酒盛りが唯一の楽しみ。反省しつつもやはり
やめられない酒ずきの人間の弱さか…
・とる年に加減のたらぬ春の宿三昧の福茶五味のとそ酒
依る年波に体調もままならず、春の旅先の宿で身体を気ずかい、薬湯の福茶を飲み、
五種の薬草を煎じた屠蘇酒を味わう、薬ずけの生活になり、浴びるほど飲んで
暮らした若き日の郷愁を盃にうかべて…
【今の世相も旅先で何種類もの錠剤を飲んでいる年寄りのツアー、変りない光景
ながら風流の漂う、なんともきれいな句に心腹します。】
・杯のおさめとなりてとそ酒をはじめし年の昔恋しき
酒の飲めなくなった正月を祝う薬用酒に、飲めた昔が恋しい思いからも屠蘇酒が
薬であり、日頃使われている「おとそ」との違いを理解した。
広辞苑より(参考)
屠蘇 酒にひたして年始に飲む薬。山倣・防風・白術・桔梗・蜜柑皮・肉桂皮などを
調合し、紅絹の三角形の袋に入れて多く味醂に浸す。一年の邪気を払い、歳を
延ばすという。屠蘇散。屠蘇延命散。屠蘇を入れた酒。転じて正月に飲む酒。
年役 老年であるため、経験に富んだものとして物事の取り扱いを任せられること。
老年の責務として勤める役。年寄役。
加減 加えると減らすと。程よく調節すること。また、その状態。程度。ぐあい。
三味 心を一事に集中して他念のないこと。
【三昧湯】寺院で、暑気ばらいに沸かす薬湯。
【三昧場】死者の冥福を祈るために設けた墓地に近い堂。
福茶 昆布・黒豆・山根・梅干などを加えて煮出した茶。
大晦日、正月、節分などに縁起を祝って飲む。
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